第4回研究会報告

日時:2013年12月21日(土)14:00〜18:00
場所:東京国際大学国際交流研究所 第1キャンパス金子泰蔵記念図書館4階L422教室


発表概要
1.「現代ドゥルーズ派のタキーヤと護教論」
発表者:菊地達也 (東京大学大学院人文社会系研究科(イスラム学研究室) 准教授)

要旨:
 本発表では、古典法学のファトワーと近現代における言説がドゥルーズ派やアラウィー派といった「極端派」をどのように扱ったのかを概説した後、ドゥルーズ派が外部に対していかに自己を表象してきたのかを分析した。
 20世紀後半には宗派内の指導層が自己のイスラーム性、アラブ性、近代性をアピールするようになったが、1980年代以降になると、平信徒(ジュッハール)による自己表象が本格化した。シリア、レバノンの平信徒による出版物には、自分たちを「宗派」ではなくイスラーム教内の「学派」として位置づけようとする傾向が顕著に見られ、その中にはイブン・アラビー流のスーフィズムを改変した解釈枠組みを示すことでハーキムの神格化を否定する主張も見受けられた。しかし、ハーキムの神格化と並んで「逸脱」と見なされがちな輪廻教義については否定されず、クルアーンに基づく正当化がなされている。以上のような言説は、タキーヤ教義に基づく単なる「護教」と見なすことはできず、近代的状況に生きる平信徒による主体的解釈がそこには体現されているものと推測される。


2.「エジプト民主主義の歴史的考察−近代議会の変遷を通して−」
発表者:池田美佐子 (名古屋商科大学コミュニケーション学部教授)

要旨:
 エジプトの「近代議会」の始まりは、19世紀半ばに開設されたヘディーヴ・イスマーイールの諮問議会にさかのぼる。以降、エジプトは異なる政治体制の下で様々な形態の議会を経験して今日に至っている。本研究会では、この100年以上にわたる議会(代表諮問議会、代表議会、立法諮問議会、エジプト議会(上院下院))の変遷を3つの視点(議会の開設の理由、議会の権限、議会の内的発展・議会活動)からたどり、エジプト議会の特徴を考察した。考察の前提として、議会を民主主義制度の一つとして捉えること、民主主義を「民主主義」対「非民主主義」という二項対立の概念ではなく、その両極の間のさまざまなバリエーションの中で理解すべきという観点に立つことを説明した。
 全体の考察として、以下の点を指摘した。まず、議会活動や立憲運動の高揚などにみられる民主主義的萌芽は19世紀半ばにさかのぼること、議会の変遷は直線的な発展ではなく、前進と後退を繰り返す歴史であったこと、また議員の内的努力によって議会が進展したと同時に、ヘディーヴの自己目的、列強の内政介入、イギリスの意向などの偶発的な外的要因もエジプト議会の発展に影響を与えたこと、最後に民族主義と立憲主義の強いかかわりを指摘した。



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