2012年6月2日公開講演会 概要紹介

「現代におけるラビの役割と挑戦―進歩派ユダヤ教と宗教間対話」
(Roles and Challenges of Rabbis in the Modern World: Progressive Judaism and Interfaith Dialogue)

 東日本大震災の後、宗教者による被災地支援活動に社会の注目が集まり始めた。 日本では宗教者の社会的役割の重要性が信仰の違いを超えて議論されるようになったのは最近のことである。

 ヨーロッパでは宗教の公共的役割が日本よりも大きいというが、では、社会の中心的宗教ではない、それどころか迫害の歴史を持つユダヤ教の場合はどうなのだろうか。

 自身を20世紀の典型的ユダヤ人と呼ぶマゴネット氏が生きた70年間は、ユダヤ人コミュニティが内外の急速な変化に晒され、新たな道を模索し続けた時代に一致する。 さらに近年は中東問題がヨーロッパのユダヤ人の身辺にも直接影響を及ぼすようになった。 ユダヤ教の指導者、ラビたちは、クリスチャンだけでなくムスリムの隣人が増える社会に向き合う中で、どのような課題を引き受け、どのように取り組んでいるのか。 ユダヤ教内部の問題(世俗化への対処、男女平等の要請等)から対外的問題(多文化共存、宗教間対話、国際政治に関わる公的発言等)まで、イギリスの対話活動家の第一人者が語りつくす。 「公開講演会ポスター(PDFファイル)より引用」



ラビ・ジョナサン・マゴネット氏公開講演会レポート


 2012年6月2日、会場を提供していただいた立教大学キリスト教学研究科を主催、本科研および科学研究費補助金基盤研究(B)「宗教概念ならびに宗教研究の普遍性と地域性の相関・相克に関する総合的研究 」(東京大学宗教学研究史学研究室) を共催として、ユダヤ教進歩派のラビであり、ロンドンのレオ・ベック大学前学長でもある、ジョナサン・マゴネット氏の公開講演会が、「現代におけるラビの役割と挑戦―進歩派ユダヤ教と宗教間対話」と題されて、立教大学池袋キャンパスにて開催された。


 ラビ・ジョナサン・マゴネット氏は、1942年ロンドン生まれ。ユダヤ教進歩派ラビであり、ユダヤ教神学者、聖書学者でもある。 ロンドン大学医学部を卒業後、ラビとして活動することを志してロンドンのレオ・ベック大学で学び、1971年にラビに叙任される。1974年にドイツのハイデルベルク大学で旧約聖書学により博士号を取得する。レオ・ベック大学教授として聖書学を講じ、また同学長を1985年から2005年まで務めた。

 ホロコースト後のユダヤ人生活の再建活動を目的とする1964年の第1回ユダヤ人国際青年会議の準備に携わったことから、以後、キリスト者との対話を主宰しはじめる。1967年4月にヘブライ語の勉強のためにエルサレムにわたり、6月の第3次中東戦争(6日戦争)に遭遇する。 ボランティアの医師として病院での産科治療を担当したが、その傍ら、東エルサレムに住むアラブ系住民と接触したことから、ムスリムとの対話の重要性を確認、1972年に開始されたヨーロッパ・ユダヤ教徒・キリスト教徒・ムスリム協議会の創設に参加し、現在まで、これら三宗教間の対話と平和的共存を目指す活動に意欲的に取り組んでいる。

 2010年に来日、同年、2011年、2012年の各前期に西南学院大学の客員研究員・教授として滞在し、シンポジウム、講演を行っている。2011年5月には同志社大学で講演を行い、2012年2月には同志社大学一神教学際研究センターの主宰する公開講演会にパネリストとして出席した。

 主著としてTalking to the Other: Jewish Interfaith Dialogue with Christians and Muslims (I.B.Tauris, 2003)がある。近著としては、西南学院大学での講演とシンポジウムの内容を中心にまとめられた『ラビの聖書解釈―ユダヤ教とキリスト教の対話』が新教出版社より2012年2月に出版されている。 同書は、第1部では「ユダヤ教ラビによる聖書解釈」と題されて、「十戒の内的連関性」、「アブラハムは神のテスト(試み)に合格したのか」、「ルツ記のラビ的解釈」という聖書の解釈に関する3つの講演が収録されている。 第2部では「ユダヤ教とキリスト教の対話」と題されて、「ヨーロッパにおける宗教間対話―個人的旅路」をテーマとした講演と、2010年3月17日に西南学院大学大学院大ホールで開催された「ユダヤ教とキリスト教の内的関係を問う」ことをテーマとしたシンポジウムが収録されている。 特に「ヨーロッパにおける宗教間対話―個人的旅路」では、「個人的旅路(personal journey)」をキーワードに、氏の生い立ちから、医学の道を離れてラビになる決断をした経緯、その後の個人的な多くの人々との出会いを軸に、 第二次大戦後のユダヤ教徒とキリスト教徒との対話、そしてムスリムとの対話への道のりと実体験に基づく活動について述べられている。


 当日は天候にも恵まれ、70名を越える熱心な参加者が立教大学池袋キャンパス7号館に集結した。 講演は英語で行われ、会場のプロジェクターには日本語訳が同時に表示された。 1時間を越える講演ののちに質疑応答がなされ、予定時間を10数分越えて、会場は熱気に包まれたまま閉会の時間を迎えた。


・ 英語(原文)講演原稿「Roles and Challenges of Rabbis in the Modern World(PDFファイル)
・ 日本語(翻訳)講演原稿「現代におけるラビの役割と挑戦―進歩派ユダヤ教と宗教間対話(PDFファイル)

翻訳文責:
科学研究費補助金 基盤研究(B)「宗教概念ならびに宗教研究の普遍性と地域性の相関・相克に関する総合的研究」(東京大学宗教・宗教史学研究室)
科学研究費補助金 基盤研究(A)「変革期のイスラーム社会における宗教の新たな課題と役割に関する調査・研究」(東京国際大学国際交流研究所)

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